Fort Bragg
ダンとジュリアナ
カレッジのサテライトキャンパスがあり、プログラムの工房がある町、メンドシノ郡フォートブラッグ。昔は製材工場があり活気づいていた町だけれど、現在は木々を切り尽くし、工場はひとつもない。出稼ぎに来ていたメキシコ人達も家族代々そのまま居着いてしまったのか、スペイン語しか話せない人もかなりいる。60年代にヒッピーと呼ばれる若者が、体制に逆らい独自のコミュニティーを作ろうとサンフランシスコあたりのベイエリアから移住してきた場所ともよく言われるが、どうやらヒッピーも歳を取り、別の生き方を選択し、その存在自体が時代と共に霧散したようです。



お土産屋さんとレストラン、小さなビール工場がある。5月から11月までが快晴、あとはしとしと雨が降る。
フォートブラッグにいた時もやはり下宿でした。木工作家、ダン・スタルザー氏の家に間借りすることになる。彼はまた木工プログラムの古い卒業生でもあったが、制作スタイルはずいぶん異なり、伐ったばかりの水分を多く含んだ状態の丸太から、手道具だけで椅子やベンチを作る、非近代的な、あるいはものづくりの原点に立ち返るような木工をする人でした。タンオークという比較的堅い地元の木を使い、ドローナイフで手早く削られたかたちは素朴だが、クサビやナタで割ったため繊維が真っ直ぐ通っていて、どの部材もかなり強度はある。機械がなきゃ木工なんて出来っこないと思っていた僕には、とても新鮮でした。




ダンの家にはもう一人の同居人、ミシガン州出身のジュリアナ・ササマンがいた。実は彼女も僕と一緒に木工プログラムを受けていて、まさに同級生。よく土曜日の夜にクラスのみんなをムービーナイトと称して集めて、ビールを飲みながら70年代のブラックエクスプロイテーションと呼ばれる今となってはクールな黒人映画の鑑賞会をよくやった。なにしろ彼女のパンツは男物の柄パンだし、ブラジャーだってしてないし、第一印象からなんだかさっぱりした奴だなと思っていたら実は彼女、ゲイでした。頻繁に遊びに来る女友達、ゾーイーが「彼女」なんだとわかった夜は、もうなんだかいろいろ想像して寝付けなかったのを覚えています。
そしてはじめの半年だけ、実はもう一人同居人がいました。授業が始まる前日に大人がすっぽり入りそうなほど大きな黒いスーツケースを両手にやって来た、スウェーデンの工芸学校カペラ・ガーデンの交換留学生、金髪も眩しい二十歳のリチャード・カウトーでした。
前半はさながら学生寮のような雰囲気で過ぎていく。