Ending
さよなら、出会った人達

木工ということに関していえば、カリフォルニア北西部を見て回ったくらいであったが、いくつか行ったギャラリーや材木屋に道具屋、木工家の仕事場を訪ねる限り、それらを取り巻く環境は日本よりもはるかに明るかった。人々は親しみやすく気さくだ。まだまだ国産の材料もあり、中南米、アジアやヨーロッパから良質な木材も届く。道具も安いし豊富。専門誌も多く、木工を理解する人もいて、それだけマーケットがある。
奇しくも僕が東京で衝撃を受けた展示の作者、ブライアンがスライド講義で来たことがあり、日本の材木業者や木工界を貶すような調子で話していたのが印象的だった。10年間日本で制作しているあいだに何か閉鎖的で旧套としたものを肌で感じたのだろうし、見渡せば似たようなピノキオスタイルばかりの日本の「木工」という状況に、ただただ疑問を感じていたのだろう。それだけ比較する対象が、ずっと幅のある多様な世界なのです。
とにかく、木工の世界だけに限らず、僕がアメリカに行って一番に感じた日本との違いは、ずばり「豊かな多様性」の一言に尽きると思う。日本に生まれ育ったことを嘆いたりはしないけれど、いちいち取り上げていくときりがないほど、もういろんな場面で違うのでした。

作品を梱包したクレイト。
トラックに積み込み、サンフランシスコの南、サンブルーノを目指す。
日本に帰るのはもうすぐだ。

帰国の当日、眩しいくらいに晴れ渡ったサンフランシスコ国際空港で、僕はひとつの事を成し遂げた達成感に浸っていた。アメリカから引き上げることが思いのほか大変で、単に疲れていただけかもしれない。しかし、仮に達成感だったとしても、それらはどこにも還元されることのない、言ってみれば自分勝手な一時的な昂揚感に過ぎない。それよりも何よりも、とにかく木工を続けていかなきゃと、ただ思うばかりであった。
短い2年間ではあったけれど、日本を飛び出して本当に良かった。出会った仲間とこの先いつかまた何処かで再会できれば、それはとても素敵なことだと思う。離れていても、みんなだいたい同じようなフィールドにいるだろうから、案外あっさりと実現してしまうのかもしれない。それまでみんな、元気でね。