1st Semester
木工をする人々

プログラムを受けられるのは17人、さらに昨年プログラムを受けた6人が随意で残っていて、合計23人がひとつ屋根の下、朝から晩まで文字どおり木工に明け暮れることになる。クリスマスまでいた交換留学生のリチャードを除けば、その年の外国人は僕一人でした。
プログラムは大きく「練習課題」「ファーストプロジェクト」「セカンドプロジェクト」と3つの期間に分けられ、プロジェクトのあとにはそれぞれ展示がある。スタッフは5人いて、かつての主宰、ジェームズ・クレノフ氏は僕がいた年の3年前にすでに引退していたけれど、時々ふらっと工房に現れては、甲高い声でインストラクターと世間話をし、質問をする学生にあれこれアドバイスを与えていた。

朝は8時半に工房が開き、フレンチローストの淹れたてのコーヒーを啜りながら雑談をしたり、仕事の段取りをつけたり、9時から始まるレクチャーまでそれぞれリラックスした時間を過ごす。
レクチャーは実演やスライドを交えて、順を追ってクレノフ氏が確立したキャビネット作りのほとんどを毎日教えていく。木の扱い方からはじまり、最終的な仕上げに至るまで、インストラクター達がよしとする美しさの「ものさし」は確かにありました。それはクレノフが彼らに授けたものであり、それをみんな知りたくて、もっと言えばクレノフの衣鉢をつぎたくて、アメリカ国内のみならず世界中からはるばる集まってきたようなものなのです。

プレゼンテーションするジョー。
奥さんと子供を連れてウィスコンシン州、マディソンから来た。右に僅か見えているのは僕のベンチメイト、ジェイソン。
ジュリアナ(左二人目)と彼女の友達。ユニークなプログラムというだけあって、工房見学に来る人も少なくなかった。

木工の知識があらかじめあったとはいえ、改めて学ぶことは多かった。インチ寸法もメートル法にはない利点もあり、慣れてしまえばかえって扱い易い。しかし結局の所、板になった木から何かかたちある別の素敵なものを作るってことは、使う道具こそ違えど何処に行ってもおそらく変わりがない。時間をかけて慎重に木を刻み、考えながら丁寧に組み立てていく。ただあえて言うならば、モックアップ(試作)に時間をかけ、さらに加工が精確なうえ、素材そのものの魅力と形との調和をひたすらに目指したものでした。
今まで使ったことのない樹種の魅力も知ることができたし、単純に木を削って何かつくることの楽しさをこのプログラムを通して改めて再発見できた。そしてなにより出会った連中がとにかく素晴らしかった。自分と同じように木に魅せられて、そうしてものづくりに取り憑かれて、同じ志のもとにいろんなものを放り投げて集まってきた奇妙なめぐり合わせは、腹の底で交わされる固い握手のような連帯感がいつもあった。国境を越えて木の魅力でつながる関係は特別であり、それはとても親密なものでした。

ファーストプロジェクトの後の最初の展示。
初日のオープニングは身動きがとれないほど人が集まった。